【ゼミ】神聖なる無垢を求めて――マイスター・エックハルト『神の慰めの書』を読む
若松と大瀧より、対話で魅力をお伝えいたします


※10分間の書き起こしです。話し言葉、表記の不統一などの不備もございますが、談話そのままの雰囲気といたしまして、お読みいただけましたら幸いです。

 

◎エックハルトの著作は、だいぶ長く講座を開催していますけれど、今どんな感じですか?

2年やっているんです。2年もみなさんにご参加いただいて。エックハルトってキリスト教神秘主義のもう、大人物ですね。この人がいなかったらキリスト教神秘主義はもうまるで変わってただろうというぐらい、大事な人なんですけど。
エックハルトは、わたしたちが考えている神の奥に、神性という日本語でもいいんですけど、はたらきとしての神というものを見ないとだめだというわけですね。人格神なんかで止まってちゃだめだ、その奥にもう、ほとんど東洋の言葉でいえば、無としての神みたいなことを見ないと、本当の神にふれたことにはならないってことを言うんですよ。
だからキリスト教のある人から見れば、いやそんなことっていう人もいるし、でもたとえば鈴木大拙のような仏教の人から見ると、それだったら仏教とも対話ができるかも、っていうふうにも思われるわけですね。エックハルトのすごいところは、ほかの宗教の神秘主義を研究してる人たちから、とっても強い、関心と賛同を得てるんですよ。
だから、エックハルトを学ぶっていうことは、単にキリスト教を学ぶだけじゃなくて、宗教的な地平がどういうものなのかということを、この人から学びうるんだと思うんです。


◎それは、宗教者にとっては有益だけれども、一般の私たちにとってはちょっと難しい?

僕の言い方が難しかったかもしれませんけど、自分の人生の現場の中に、人間的地平しかないと、いつも人間のことばっかりじゃないですか。人間を超えたところから見ることもできないし、人間を超えた存在との関係もなくなってしまう。いつも人間が人間を支配するっていう世界でしかないわけですよね。
そうじゃない、すべての人間が等しくなるような、そういう存在としての神ということを、エックハルトはとても強く言うんです。それを愛だって言い方もするんですけど、神は愛であるっていうのがキリスト教の考え方としてあって、愛だけが万物を等しくするという、とても印象的な言葉をエックハルトは残してますね。
われわれはいま、優秀さを競うような世界にいるじゃないですか。エックハルトはわれわれを、等しさの世界っていうところに導いてくれる、それが宗教的地平。人間的地平は、なんだかんだ言いながら、何かにおいて優れていることがいいことなんですよ。

◎比較の世界なんですね。

そう、比較の世界なんです。だからたとえばお金持ちであれとは言わないまでも、勉強ができる方がいいし、早く走れる方がいいしみたいなね、秀でていることがやっぱりいいことだと。たとえば経験が深いってのでもいいですよ何でもいいんだけど優れてる、深いとか、なんかいつも比較される。 だけど宗教的地平というのは、本当の意味での等しさ。どこにおいてわれわれが等しくなれるのかっていうことを、考える糸口を見出すことができるんじゃないかなと思うんですね。


◎今回のテキスト『神の慰めの書』は、どういう本なんですか?

『神の慰めの書』っていうのは、「神の慰めの書」という文章もあるんですけど、この本全体のタイトルでもあるんですね。
この本全体の中ではエックハルトの説教と、あとエックハルトが書いた論述と伝説、となると思うんです。まずエックハルトの語る言葉が本当にいいので、まず説教ですね。説教は教会で話すんですけど、あるいは教説といって、食事の前に少し講和みたいな形で話す言葉、そういうのもすごくいいんですよ、短いんですけど。そういうものみなさんと読みながら、後々エックハルトの書いた文章も読んでいきたいなって思ってます。

◎長く2年続けられて、今まで参加されてきた以外の方が途中で入るのは、だいじょうぶなんですか?

ぜんぜん問題ないです、だいじょうぶです。なぜかというと、たとえば、神とは何か、魂とは何か、等しさとは何か、愛とは何か。もう、いつから考えはじめてもいい問題なので。とくに、優れた作品というのは知識の前提を必要としないんですよ。本当のことっていうのは、知識なんかいらないの。敬虔な態度と熱意があれば、ぜんぜんだいじょうぶなんです。
人間を超えた大きなものの前に、人間というのは、より小さくなることが本当はいいのではないかって、ちょっと考えるとわかると思うんですよね。肥大化していくよりも、大いなる者の前で小さいとき、ひとは本当にひとたり得るんじゃないかというようなことをエックハルトは教えてくれる。


◎この「神の慰め」っていうのは、自分が落ち込んでるというか悲しみの中にいるようなときに読む本なんですか?

そうですね、神というのはどういうふうにわたしたちを慰めてくれるのか、神の慰めはどういうふうにわれわれに現れるのか。たとえば、人間の慰めと神の慰めって違うじゃないですか。

◎どんなふうに違うんでしょうか。

ヴィクトール・フランクルとも似てるんですけど、エックハルトは、苦しみはとても尊いって言うんです。苦しみというのは、神に至るもっとも確かな乗り物だということを言うわけですね。だから苦しみがない世界がいいのではない。苦しみとともにあることに意味を見出すことが、とても大事だと、エックハルトは言う。苦しむとき、神はわれわれと共に苦しむ、というようなことが『神の慰めの書』ということなんですね。
わたしたちからどうやったら苦しみが取り除かれるか、それも悪くないと思うんだけども、誰かのことを愛せば、苦しくなるじゃないですか、だってその愛する人が苦しいとき、わたしたちも苦しいわけだから。そういうひとたちに、愛するのはやめろっていうことにもなりかねないでしょう。そうじゃなくて、苦しみにこそ意味があって、苦しみがわたしたちに何をもたらすのか考えを深めていく方が、よほど重要なんじゃないかということを、エックハルトは言う。エックハルトの言葉は、本当に美しい。もうこれも魅力のうちの一つ。
本当のことは美しいっていうことを、みなさんと味わっていきたいなと思うし、そういう場を持ててるってことが、この一冊の本、あるいはひとりの人物をめぐって2年間も学んでこれている、とても大きな理由だと思いますね。

◎でも翻訳なわけですよね。

これから読むのは相原信作さんの名訳なんですけど、残るべくして残ってるから、いい翻訳です、やっぱり。
これは少人数制ゼミですけれど、一回だけでもいいから出てほしいなと思います、連続6回単位でね、半年でやってるんですけど、全部出ないといけないんじゃないか、なんていうことはなくて、一回出て「ちょっと自分は今じゃないな」と思ったらやめていただけますし、連続じゃなくて一回だけでも、あるいは出られるときだけでも、ご参加いただけるとありがたいなと思います。

◎少人数制ゼミなので、質問までお受けしますという本受講生と、聴講のみという聴講生の方がいますが、どんな質問が出るんですか?

もういろんな質問がありますね。魂とは何かということを考えていくわけで、そうなるとあらゆることが入ってきちゃうから、今こういうことに苦しんでいて、みたいなそういう話もないこともない。けれども開かれた場なので、開かれた言葉でみなさん語ってくださっています。 たとえば個人のことから始まることでも、参加されているみなさんが「始まりは何事かとも思ったけれど、とっても深いところに行くな」っていうような質問を、なさってますね。ぜんぜん、専門的なことじゃないです。もっと日常的な経験。実際に実経験に基づいた、日常的で、切なることを、とっても平易な言葉で質問してくださってる。 全体でだいたい2時間弱なんですけど、質問が30分ぐらいあって、そこは、あるハイライトですよ。僕もたくさんそこから学んでいるように思いますね。

◎それはやっぱりエックハルトの言葉のちからというか、そういう手引きのもとにあるからそういう質問が出てきたり深められたりするっていうことなんですかね。

やっぱりエックハルトの言葉がわれわれをそういう深いところに導いてくれてるってことだと思うので。でも参加くださってらっしゃるみなさん、本当にいい意味で、創造的な意味で、とても素直な方たちが多いので、エックハルトのひかりにそのまま、自分の思いを重ねるように、いろんな深いところで考えてくださってるなというのは、もうひしひしと感じますね。

◎ひかりっていいですね、何かちょっと、白っぽい感じのうっすらとした感じの。

ほんとうにそうです。繰り返しになりますけど、連続して出なきゃいけないと思ってらっしゃる方が多いかもしれませんが、お試しで出ていただけると、僕としてはありがたいな。

◎そうですね。新しい方にまずは一度だけでもご参加いただきたいですし、2年ついてきてくださってる方々、この後もよろしくお願いいたします。



【ゼミ】神聖なる無垢を求めて――マイスター・エックハルト『神の慰めの書』を読む
■第4回 2023年1月13日(金)19:30-21:30
  ・本受講生 お申込み
  ・聴講生 お申込み

■第5回 2023年2月10日(金)19:30-21:30
  ・本受講生 お申込み
  ・聴講生 お申込み

■第6回 2023年3月10日(金)19:30-21:30
  ・本受講生 お申込み
  ・聴講生 お申込み

【聴講生とは】講座内での発言、質問などはできませんが、講義や参加者と講師とのやりとりなどは全てお聞き頂けます。課題の提出は含まれません。(受講料7,700円税込)






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